【SIGHER】

 ある日の朝、まだ余り人の通っていない道を少女は走っていた。
 腕時計で時間を確認しながら、目的地へ向かう彼女の手には、大切そうにバッグが抱えられていた。

 そして目的地へ到着した少女は、時間を再度確認し、息を整えてインターホンを押した。



 「……?!」

 突然の来客に、氷室零一は困惑した表情になった。
それは、インターホン越しに少女の声が聞こえた為である。
 氷室は少し戸惑ったが、少女を外で立たせておく訳にもいかず、部屋へと招き入れた。


 「…どうした?こんな早くに」
「あのっ…お弁当を作って来たんです。零一さんに食べて貰おうと思って……」

少女はそう言って、バッグの中からハンカチに包まれたお弁当箱を出した。

 「これを渡す為に、わざわざ朝早く来たのか?」
「……はい」
「それなら、何故連絡を入れなかった?」
「あの…驚かそうと思って……」

 氷室の厳しい口調に、少女の声は自然と小さくなった。
上目遣いで氷室の表情を伺いながら、彼の言葉を待っている。
そんな少女を見て、氷室は「まったく…君って奴は…」とため息を吐いた。

 「次からは、必ず連絡を入れてから来なさい。私だってそれなりの準備が有るし、それに…君をもてなす事も出来るだろう?いいな?!」
「……はいっ!!」

氷室は笑顔の戻った少女を見て、「よろしい」と微笑んだ。

 「……コホン!!…所で○○……」
「はい?」
「…君の手の中に有る物を、早く寄越しなさい……」
「……はい、零一さんっ!!」

 氷室は少女の持っているお弁当箱を指さして、もう一度咳払いをした。
そんな氷室を見て、少女はクスクス笑いながらお弁当箱を手渡し、それを氷室は照れを隠しながら受け取った。




 「……もうこんな時間か…」

暫く少女と雑談を交していた氷室は、時計を見て時間を確認した。

 「本当は君を大学まで送ってやりたい所だか、私は学校へ向かわなければならない。君の家までになるが…いいか?」
「あのっ、歩いて帰ります。零一さん遅れても困るし……私はまだ、時間有りますから」
「…いいから乗りなさい。学校へ行く時、君の家の前を通るのだから…。……それに、私はその…君ともう少し一緒に居たい」
「零一さん…」

 氷室は照れている為か、少しぎこちない動きでみ支度を整えて、少女の手を取り愛車へと向かった。


 「では、私はこれで。今日も一日頑張る様に!!」
「はいっ!!あの…有難うございました」

少女を家の前で降ろし、一言、二言会話を交して、氷室ははば学へと向かい、少女は彼の車が見えなくなるまで手を振り続けた。





 学校での氷室は、何時もの様に冷静を装っていたが、内心ではソワソワして自然と腕時計を見る回数が増えていた。
その原因は勿論、少女から今朝受け取った『愛妻弁当』に有る。
 そして、ついに氷室はその時を迎えようとしていた…―――

 (……落ち着け零一。先ず、何処で食べるかが問題だ。中身の見た目にも寄るが、下手に教員や生徒の目に付く所では冷やかしの対象に成るに過ぎん。かと言って、飲食厳禁な場所など以ての外だ!!
 …しかし、折角作ってくれた弁当を食べない訳にもいかない……)

 氷室は頭の中でそんな事を悶々と考えながら、運命の昼休みを迎えた。





 氷室はチャイムと同時に立ち上がり、弁当箱と一緒にカモフラージュとしての数学の資料やらを抱えて職員室を出た。
そして、脇目も振らずに、目的地である進路指導室へと向かう。
 進路指導室は各準備室程の広さで、飲食厳禁では無いが、『反省室』と云う別名がついている為、生徒は寄り付かない。
正に今の氷室にとって都合の良い場所なのである。

 指導室に着いた氷室は中へ入ると、鍵を締めて中央に有る席に着いた。
「頂きます」と両手を合わせ、深呼吸をしてから包みを開けると、小さなカードが入っていた。


 「……?」



 『零一さん。午後の授業も頑張って下さいね』



 「…全く、君って奴は……。どうやら、私は君には敵わない様だ……」

カードに目を通した氷室は、「今朝といい、今といい…」と苦笑して、本日、少女に対して二度目の溜息を吐いた。




 その日の午後からの授業では、何時も以上に張り切る氷室と、悲鳴を上げる生徒達の姿が有ったとか、無かったとか……


 そんな今日の学校での出来事を知る由も無い少女の元には、氷室からのメッセージカードが入っている空のお弁当箱が戻って来ていた。





fin


設定は、卒業後の早朝デートです。
突然やって来た主人公ちゃんにあせろ!!氷室!!(笑
氷室っちは絶対ヘタレだと思う。
主人公ちゃんの突飛な行動に振り回され続ければいい。。。

ドライブスチの変貌っぷりには大笑いしました。


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