【日向葵ガ咲ク時】

 「綺麗だったね…」
「あぁ…」

 八月第一週の日曜日、葉月珪と少女は花火大会に訪れていた。
今年は二人がはば学を卒業し、『恋人』になってから初めての花火大会である。
少女の右手には金魚すくいで取った紅い金魚が下げられ、左手は隣に居る葉月の手と繋がっていた。
 花火大会が終わり、人の殆ど退いた臨海公園はしんと静まり返り、二人の履いている下駄が、歩く度にカランコロンと闇の中に響いた。

 「また…来年来ようね…」
「あぁ…」
「…ねぇ…珪くん…」
「…ん?」

特に会話をする訳でも無く二人は少女の家に向かっていたのだが、ふと、少女は歩みを止めた。
それにつられて葉月も歩みを止める。

「花火…しよ?」
「?」
「…もう少し…一緒に居たいの…」

少女の台詞に葉月は少し困惑した表情を浮かべたが、強く葉月の手を握り俯く彼女を見て、「分かった」と答えた。


 二人はコンビニに入り、手持ちの花火が何種か入っているセットとライターを購入し、再び手を繋いで少女の家の近くに有る公園へと向かった。

 「ゴメンね…我儘言って…」
「いや、構わない…俺も、もう少し一緒に居たいって思ってた……」

葉月の言葉に少女の表情は綻び、笑顔を取り戻した。



 公園に着いた二人は辺りを見渡した。
しかし、夜遅い為か公園には誰も居らず、虫の声だけが響いている。
 二人は水道の近くにしゃがみ、袋から花火を取り出した。

「ほら…」
「有難う」

葉月の手渡した花火を少女が受け取ると、ライターで火をつける。
花火から吹き出す色とりどりの光を二人は眺め、消えては次へと火をつけていった。

 「ねぇ珪くん、小さい頃こんな事しなかった?」

 ふと、少女は立ち上がり後ろに下がると、光の零れ落ちる花火を宙に回した。
暗闇の中に光の線が浮かび上がると、少女は子供の様に無邪気に、楽しそうに笑った。
そんな彼女の姿を見て、葉月は微笑んだ。

「あぁ…俺もやった事有る」
「だよね!☆でしょ…○でしょ…」

葉月の台詞に嬉しくなって、少女は闇の中に次々と光で模様を描いた。
やがてその光は弱くなり、辺りをまた闇で包んだ。

 「…終わっちった…珪くん、花火…まだ有る?」
「いや…これで最後…」

残念そうに葉月の元へ戻って来た少女に線香花火を手渡した。

「そっか……はい!一緒にやろ?」

少女が線香花火の半分を渡すと、葉月は「サンキュ」と受け取った。

 線香花火は、前の花火とは違う淡い光で二人を照らし出した。
静かな音を立てて火花が散り、朱の光の雫が滴り落ちて、弱々しく光る紅玉が紙縒から離れて消える。
そんな儚い時間を二人は只、静かに見つめていた。


 お互いが最後の一本に火をつけた時、少女は口を開いた。

 「ねぇ…去年の花火大会の帰りにさ…珪くんが言った事覚えてる…?」
「あぁ…」
「今でも…そう思う?」
「いや…今は思わない……」

 お互いに目を合わさずに、花火を見つめて会話をしていたが、葉月の言葉に少女は顔を上げた。
すると、葉月も少女を見て柔らかく微笑んだ。

 「…今はお前が…○○が傍に居る…。何処かへ行ったりしないでずっと俺の傍に…だから……」
「珪くん…」
「確かに、お前と離れると切ないけど…これはあの頃の気持ちとは違う気がする…」
「うん……!!」

 二つの淡い光りは、葉月と少女の笑顔を最後に浮かべて地面へと消えて行った―――



 花火が終わった二人は、後片付けをして少女の家へ向かった。

 今度はお互いの指を絡め合い、離れない様にギュッと手を繋いで……



 今日の花火を忘れない様に…



心の中に咲いた大輪の花を枯す事の無い様に……



強く…強く……




fin


設定は卒業後の花火デートです。
葉月の花火スチは切ねぇ!!って感じだったので、それを主人公ちゃんが引きずってたら・・?
って思って書きました。
葉月のスチでは花火と子猫スチが好きです。


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